2026/10/21

辻村深月『光待つ場所へ』ネタバレ含む

 


こちらは3つの物語の短編集です。

文庫版は4つないし5つの物語のようですが自分は新刊を読んだので3つです。

そのうち文庫版も読みたいですね。

昔は短編集って物足りなさを感じることが多かったのですが、好みの変化なのか辻村深月が凄いのか、最近は短編集も楽しく読めてます。


1つ目は「しあわせのこみち」。

画家志望と言うほど熱意が持てず、ただそれなりに才能があるために惰性や義務的に絵画を続けている清水あやめが初めて味わう敗北。

あやめに敗北感を味あわせた相手の田辺との出会いと交流、そして自分の殻を破って最優秀賞を受賞するまでの物語。

人間的な感情を捨て去ってひたすら絵画に打ち込んでいたひかりが田辺との交流を通して徐々に人間的な感情を思い出していくのが良いですね。


2つ目は「チハラトーコの物語」

中学生時代に出会ったオタク教師の影響でオタク化した美人モデル?チハラトーコの物語。

嘘を織り交ぜた会話で自分をちょっと特別な存在に仕立てていくわけですが、本人的にはあくまでエンターテイメントと言う扱いで利他的な行動のつもりなわけですが、途中段々怪しくなってきて何のための嘘か分からなくなってきてしまう感じです。

ただ、最後は得意の嘘である人を守りますし、嘘で守ってきたプライドを棄てて前に進んでいきます。

チハラトーコは29歳なわけですが、結構イタイ系キャラで描かれていて好きなキャラですね。


3つ目は「樹氷の街」

合唱コンクールを巡る生徒たちの物語で、ピアニストに立候補した倉田は自由曲の樹氷の街が上手く弾けずにクラスメート全体から悪く思われ、ある日自由曲の楽譜が音楽室のゴミ箱に捨てられてしまいます。

これを捨てたのは誰なのか?指揮者の天木には思い当たる人がいるようですが、そこは一旦脇に置いて自由曲のピアニストは松永郁也に変更されます。

松永郁也のピアノで合唱コンクールの目処がたちますが、その間に各登場人物がちょっとずつ浮き彫りになる感じです。

最終的に天木は楽譜を捨てたのは倉田自身で、自作自演である事、そもそもピアニストに立候補したのは天木へのアピールであること(倉田は天木に3回告白して3回ふられたらしい)等を述べます。

倉田もチハラトーコとは違った意味でちょっとイタイ女子なわけですが、その辺の事情もあって天木は始め倉田をかなり邪険にあしらってる感じです。

最後は気持ちを受けとめるわけではないまでも天木と倉田は友人位の関係性になります。

ちなみに倉田と天木に関して結構書きましたがこの物語自体はどちらかと言うと天木と松永の物語で倉田の描写は弱めです。


辻村作品の女子は割と「自分をちょっと特別と思っててややイタイ系」ですが今回の短編3作の清水あやめ、チハラトーコ、倉田は方向性はそれぞれちょっと違いつつもこのパターンに合う感じで安心の辻村作品といった印象でした。

また、今作の登場人物は結構既視感があるなと思って読んでいたのですが、他作品にも登場している人物が多いみたいですね。

その辺を復習するためにも改めて他作品を読んでみたくなりました。

2026/10/20

辻村深月『本日は大安なり』ネタバレ含む

 


結婚式をテーマに4組のカップルを描いた話。

ミステリーと言うよりかはドタバタコメディみたいなノリで読める作品かなと思います。

各所に色々物語の仕掛けがありますが、基本的にゆるく楽しく読めるのであんまりドロドロした展開が苦手な人なんかでも楽しめるのではないかと思います。


個人的にはウェディングプランナーの山井多香子と大崎玲奈の話が好きですね。

4組のうち唯一完全にシリアスな展開で読んでいてハラハラしたりもしますしとても良かったです。


辻村作品が好きな方には加賀山姉妹の話が相性良さそうです。

女性のちょっとドロドロした部分が描かれていて凄く辻村深月らしいです。

トリックはベタに姉妹入替えですが、ちゃんと見破られることでこの話を面白くしていると思います。

ここで誰も見破れなかったら加賀山姉妹の話が一番暗い話になったと思います。


他の2つはどちらかと言うとコミカルな方向に振っていて作品全体の世界を拡げる役割なのかなと思いました。

ただ、最後鈴木が良いところを持っていくのは素晴らしい展開ですね。

2026/10/19

辻村深月『オーダーメイド殺人クラブ』ネタバレ含む

 


中学二年生の主人公の女子中学生が文字通り中二病を拗らせたような性格をしており、カッコよく自殺をすることを決意する。

ただ、カッコよく死ぬためには他人の手が必要で同級生のちょっと変わり者な男子を巻き込み計画を進めていく物語です。



個人的には主人公の小林アンの考えていることがまんま今の自分に近くて物語に没入しました。

勿論自分はアンのように「死にたい」とまでは思わないのですが、今生きてるこの場所に強烈な違和感やくだらなさを抱いていると言う点ではかなり共感できました。

巻き込まれた男子中学生の徳川は初登場時はちょっとサイコパス気味な感じでありますが、徐々に人間性が描かれていき普通の中学生とまでは言いませんがそれなりに理解出来る人間になっていきます。

この二人の計画は未熟でそのやり取りの様は見ている方が恥ずかしくなるような面もありますが、そこが逆にデートっぽく見えたりもしてとても微笑ましいです。

最後もとても温かく救いのあるものになっていて、お気に入りの作品の一つですね。

2026/10/15

辻村深月『嘘つきジェンガ』ネタバレ含む

 


3つの「嘘つき」の物語。

こちらは短編集です。

短編ながらどれも濃密で面白かったですね。


『2020年のロマンス詐欺』は辻村作品らしい若者の純真さを描いた作品で凄く青臭い主人公なのですが個人的に好きでしたね。

『五年目の受験詐欺』は裏口入学を扱った話で、でも本当に裏口入学出来てたの?みたいな謎を巡った面白い内容です。

『あの人のサロン詐欺』はとある漫画家が好きすぎて、ネット上でなりすましてしまって、とうとうサロンまで開催するようになってしまった人の物語。

凄くぶっ飛んだ内容ですが謎のリアリティがあってとても面白いです。


読んだのが少し前でストーリーがうろ覚えになってしまっているのでまた図書館で借りてこようかな。

2026/10/12

辻村深月『闇祓』ネタバレ含む

 


辻村作品としては珍しく純ホラーなテイストの作品。

一見短編集かな?と思うくらい各章の繋がりを感じないのですが、最終章でしっかり繋がります。

日常的だけどちょっと「ぞっとする」話や完全にホラーな話まで色々織り交ぜており、それぞれ全く違和感なくて凄く読み応えありました。

実は完全にジャケ借(図書館で借りたので)だったのですが、これは良い作品だったと思います。

2026/10/11

辻村深月『島はぼくらと』ネタバレ含む

 


とある島に住む4人の高校生を中心とした、島で起こるいくつかのちょっとした事件の話。

辻村作品としては比較的緩い雰囲気のもので、作者の得意な?中高生女子のドロドロした心理描写もなく安心して読める作品です。

盛り上がる展開が少なく物足りなさを感じる人もいそうですが、個人的にはかなり好きな部類でした。

起承転結がしっかりしている感じで、最後のシーンもとても好きですね。

2026/10/06

辻村深月『青空と逃げる』ネタバレ含む

 


ダブル不倫をした役者の夫が行方不明になり、その相手(芸能人)は自殺。

残された妻と息子は不倫相手の芸能事務所に追われる身となり各地を転々と逃げる話。


逃げた各所の話はそれぞれ良い話だったりするのですが、肝心の何で逃げるのかって部分の描写が弱くて説得力に欠ける印象でした。

あと本作最大のトリックで「息子が父親の連絡先を知っている」と言うのがあるのですが(妻は知らない)、それなら息子はそんな行動とらんだろとか思う箇所がいくつかありますし、主人公である妻がよくある「物語の展開のために無理矢理アホにさせられた人」みたいな感じでとにかく全体の流れの説得力が弱く感じました。

先に書いた通り各地でのエピソード自体は良いものが多いので余計にこの骨組みに対する違和感は強かったですね。

各地を転々とする展開は『朝が来る』の片倉ひかりパートに近いものを感じましたが、リアリティは圧倒的にあちらが上だと思います。